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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

これで、米友の小舟の出所がわかったのみか、その持主の諒解をも得たことになる。そこで、彼は引返そうとすると、浪人が待てと言いました。

「まあ、君、少し待ち給え、一緒に帰ろう」

一緒に帰ろうにも帰るまいにも、おいらもこの人の帰り先がわからねえが、この人もおいらの行く先を知っちゃあいまい。変なことだと思ったが、それでも米友は、そう言われると無下に振切るわけにもゆかない。

おもむろに釣道具を片づけている浪人の左右を見ると、蓆の上に何か黄表紙が四五冊、散乱している。

百八十五

「君は、あの、なんだろう、このごろ、胆吹山の上平館へ出来た組合の中にいる一人だろう」

と浪人から問いかけられて、米友が、少し眼をむいて、

「そうだ、それを、お前はどうして知っている」

「それはわかる」

「どうして、わかる」

「そりゃわかるよ、言語挙動で、この土地に居ついている人か、新来の人か、誰だってわかる」

「ふむ――」

ここにもまた勘のいい奴が一人いる!

この浪人とは、数日前、ここの岸で釣をしているところを、偶然立ち話をしたばっかりなのに、自分がいま胆吹王国にいることを先刻承知でいるらしい。