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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
をさし止めろ、と言っているうちに、水面の一個所、水の色が紅くなったところがある、あそこへ船を差廻してみよと、鶴見から言われているうちに、そこへぽっかりと屍体が一つ浮いて出た、それを引き上げて見ると、右の武功者が、高股を切り落されて浮び出して来たのだった」
「やりましたね、鶴見先生」
「その男が水へ飛び込むと見て、鶴見が斬って刀を鞘に納めたのだが、その抜く手も、鞘に納めるところをも、誰も見たものはなかったそうだ……」
「そうでしょう、林崎甚助先生などにもさような逸話はありますね、私も師匠から承りました」
柳田平治が、つづいて何か相当の武術の応酬を試みようとしていた時分に、さきほどからむらむらしていた雲が月を隠してしまい、地上がにわかに暗くなりました。
二十三
月は隠れたけれども、本来は月の夜なのですから、天地は暗いといっても、闇の夜ではありません。
「月が隠れたね」
「雲が出てまいりました」
二人の心づかいは、ちょっと天上に向って転向しましたけれども、そうかといって、その雲行きも天候の激変を暗示するほどの危険性はないが、今までのように皎々たる月光が、雲を破って現われることは、ちょっと覚束なくなりました。