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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
38 農奴の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,484 字 · 60 页
一
近江の国、草津の宿の矢倉の辻の前に、一ツの「晒し者」がある。
そこに一個の弾丸黒子が置かれている。往来の人は、その晒し者の奇怪なグロテスクを一目見ると共に、その直ぐ上に立てられた捨札を一読しないわけにはゆかぬ。その捨札には次の如く認められてあります。
この者、農奴の分際を以て恣にてうさんを企てたる段不埒につき三日の間晒し置く者也。
この捨札を前にして、高手小手にいましめられて、晒されている当の主は、知る人は知る、宇治山田の米友でありました。
彼が、この数日前、長浜の夜を歩いた時に、思いもかけぬ捕手と、だんまりの一場を演じたことは、前冊(恐山の巻)の終りのところに見えている。その米友が、今は脆くもこの運命に立至って、不憫や、この東海道の要衝の晒し者として見参せしめられている。
彼は今や、彼相当の観念と度胸とを以て、一語をも語らないで、我をなぶり見る人の面を見返しているから、その後の委細の事情はわからないながら、右の簡単な立札だけを以て、一応要領を得て往く人も、帰る人もある。ところが、この捨札の意味が簡にして要を得ているようで、実は漠として掴まえどころがないのです。