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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
38 農奴の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,484 字 · 60 页
伝うるところによりますと、あの小男はあれで、勇敢無比なる手利きであるそうですな、捕方に向った一方も、その方では名うての腕利きであったが、すでに危なかったそうです。すなわち、さしも腕利きの捕方も、すでにあの小男の一撃の下に危ない運命にまで立至らせられたものらしいが、半ば以下、形勢が急転して、難なく縛についたものらしい。つまりあの小男は、最初のうちは、自分に疚しいところがないから、理不尽の取押え方に極力反抗したけれども、相手が、わかっても、わからなくても、とにかく正当の職権を以て来ているのを認めたから、ぜひなく縛についたという落着らしいのです。ところで縛りは縛ってみたが、連れて来て糺問してみると、なんらの罪がない――」
四
「ははあ、わかりました」
不破の関守氏は、青嵐居士からの一くさりを聞いて、相当の頓悟があったらしく、二度ばかり頷く。
「罪のないものに刑は行えない、刑を行わんとすれば、相当な罪をきせてかからなければならん、そこであの先生、その政策にひっかかったのだな」
「そうです、時節がら、農民おどしの案山子に決められたという魂胆なのでしょう、案山子として使用するには、不幸にしてあの男は恰好の条件を備えていたものと認められる」