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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
41 椰子林の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页
宇治山田の米友は、しばしそれを見送っていたが、二三子の姿は三宝院の境内に消えても、竹藪に飛び込んだ、けったいな野郎は容易に二度と姿を見せません。
時が経つうちに、米友もようやく退屈を感じ出してきました。退屈を感じはじめると、この男は生来短気なのです。短気が癇癪を呼び出して来るのが持前なのですが、ようやく少し焦れ出すと共に、後ろ捨身に投げられた銭金袋に目がつかないわけにはゆきません。これが米友でなかった日には、何事を措いても、このしこたまのテラ銭が気になってたまらないはずなのですが、今になって、ようやく草むらの中に、かっぱと伏している袋に気がついたのは、無慾は感心としても、この男の神経としては鈍感に過ぎる。
「やっけえなものを置いて行きやがったな」
試みに、草むらの中へ分け入って、その袋に諸手をかけてみました。重い。幸いにしてこの男は稀代の怪力を持っている。
かくて、この金袋を抱き起してみたが、さてこれからの処分法が問題です。
実は問題でもなんでもありようはずはない。およそ、盗難や遺失物は交番へ届けさえすれば、それで済むことなのです。当時まだ交番が出来ていない、出来ているとしても、その近所にないというならば、これに代る一時の手段はいくらもあるべきはずなのです。