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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
41 椰子林の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页
その留守には、お絹がおとなしく待っている。
誰も来ないとなると、閑の閑たる根岸の里。お絹は大丸髷に手拭を着せて、主膳の居間の掃除をはじめました。
神尾主膳の居間は、らんみゃくです。王羲之もいれば、遂良もいる、佐理、道風もいるし、夢酔道人も管を捲いている。自叙伝のようなものと、このごろ書きさしたその原稿も散らばっているし、そこらあたりは、さんざんの体でありますが、これは主膳が、ことわって、うっかり手をつけさせなかったという理由もあるけれど、二人ともに無精ぞろいのさせる業でもありましたが、今日は、すっかりそれを掃除して、一点の塵もとどめぬようにこの一間を清算してしまいました。
掃除ということに、こんなに身を入れたことは、お絹としては、生れてはじめてのようなもので、掃除をきれいにしてみると、室がきれいになるばかりではない、身心も何だかさっぱりして、若々しい気分に満ちて、まだ本当の意味では味わったことのない新所帯の気持、どうやら新婚の気分といったようなものに浮き立つのも、いまさら気恥かしい。
夕方になると、約束よりも早く立戻った神尾主膳。
お絹に賞められること、そうして、その日の晩餐も、睦まじく、お絹の待構えた手料理とお給仕で快く済ましてから、食卓の談がはずむ。