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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

41 椰子林の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页

青空文庫

「為有縁無縁衆生施餓鬼供養塔」

墨色もまだあざやかに、立てたのは昨日今日の特志家の善業であること申すまでもありません。

その大きな供養塔の木柱が立っている、その下の、波の寄せては返す岸辺を見ると、そこに雛卒都婆が流れている、その卒都婆もまだ新しい。波になぶられて、行きもならず、戻りもならずに漂うている、その墨の文字さえが、供養塔の文字とほぼ同時同筆を以て書かれたように、あざやかに読めるものですから、兵馬がそれを見やると、

「無明道人俗名机竜之助帰元」

と書いてあるので、蛇を踏んだようにハネ返ってその卒都婆を拾い上げました。

見事な筆蹟である上に、これはまさしく女の手筆だと見ないわけにはゆきません。しかも、その女の手筆というものが、たしかにどこぞで見たことのある筆蹟のように思われてならないのですが、その筆先しらべはあとのこと、「無明道人俗名机竜之助」の文字が兵馬の腹にグザと突込みました。

誰がこういうことをした、眼のあやまちではないかと、篤と見直したけれども、そのほかのなんらの文字でもない。

兵馬は、これを取り上げると、もう一つ、それと上になり下になって漂うていたもう一つの同形のものを取り上げて読むと、