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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

41 椰子林の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页

青空文庫

「そうか、では、ゆっくりおやりなさい、火が焚きついたら、拙者もあたらしてもらいましょう」

「さあさあ、どうぞ」

竜之助は、この婆さんの側に立って、釜の下に手をかざしながら、つまり、アメリカの大統領と同じような炉辺閑話の形式で、問答をはじめました。

六十一

「婆さん、お前ドコから来た」

「はい、大原の寂光院から出て参りました」

「なに、大原の寂光院?」

寂光院と聞けば、美しい尼さんがいるとのことだが、いやはや、見ると聞くとは大きな相違、見るわけにはいかないが、気分でちゃんと受取れる、老いさらばえた上に、お腹がすいているんでは問題にならない、と竜之助が手持無沙汰になっていると、老婆は頓着なしに、

「寂光院の水仕をつとめておりましたが、なにしろ、お腹がすきましてねえ、あなた」

ねえ、あなたもないものだ、お前のお腹がすいたかすかないか、こっちの知ったことではない。この老婆は、最初から最後までお腹がすいたことばっかり言っている。まるでお腹をすかせるためにこの世に生れて来たような婆さんだと竜之助が思いました。それにもかかわらず、老婆は繰返して、

「なにしろお腹がすいてたまらないものでございますから、そんなに食べられては困ると言って、追い出されてしまいました、よんどころなく、こうしてお釜を背負って出て参りましたが