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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

41 椰子林の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页

青空文庫

「やれやれ、これで当分お腹が持ちましょう、飛んだお邪魔を致しました」

と言いながら、大釜の一端に口をつけると、釜の中に残った汁を、鯨のように吸い込んでしまい、それから以前のように大釜には縄をからげて、われとわが背中へ背負い込み、そのまま、以前の通り、押しつぶされるように前屈みの姿勢で、えっちら、おっちらと歩み出し、岩倉村を経て東山の方へ姿を消してしまいました。

六十二

ここは、三千院とは対岸的の存在。三千院の大伽藍に比べると、極めてみすぼらしい存在ではあるが、その名声を以てすると三千院にもまさる寂光院。

寂光院の塔頭に新たなる庵を結んだ、一人の由緒ある尼法師、人は称して、阿波の局の後身だとも言うし、島原の太夫の身のなる果てだと言う者もあります。

この尼法師、年はもはや五十路を越えているが、その容貌はつやつやしい。机に向って写すは経文かと見ると、そうではなく、平家物語の校合をしているのであります。

「文治元年九月の末に、かの寂光院へ入らせおはします。道すがらも四方の梢の色々なるを、御覧じ過ごさせ給ふ程に、山陰なればにや、日もやうやう暮れかかりぬ。