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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

41 椰子林の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页

青空文庫

と言うから、鐚が木口の後ろを見ると、いかにも人のよさそうな老爺が一人、なべーんとした面をして、しょんぼりと控えている。その姿を見て、鐚が、なるほど姪を孕まして、板下に書いて売出しそうなおやじだ、至極お人よしだなと思いました。だが、いい年をして、木口あたりの手下になって、頭を下げに来る、老爺の人のよい姿を見ると、鐚も物の哀れを感じないわけにはゆきません。

木口の後ろには、まだ、これを親分と頼むイカモノが多分に控えている。これらを押並べて、

「さあ、面が揃ったら、ひとつここでパチリとやってくんな」

当時、舶来の珍しいはやどり機械を据えた三下奴――

「爺つぁん、お前も下っぱの方へ坐りな」

信州から来た木曾の藤爺さんを、下っぱに押据えて、木口勘兵衛尉源丁馬が傲然として正座に構えたところを見ると、さすがの鐚も悲鳴をあげ、

「トテモ受けきれねえ」

と言って、逃げ出してしまいました。

下駄をひっ提げて、溝板のところをほうほうの体で逃げ出した鐚助――

「どうもはや、木口勘兵衛ときては、さしもの鐚も受けきれねえよ、あいつ、イカモノ作りの四国猿のくせに、いやにアブク銭の銭廻りがいいもんだから、トカク銭の力で、八方袖の下撫斬流と来るから受けきれねえ」