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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

それは獲物を捕えるために張った蜘蛛の巣でないことはわかっているが、さりとて、お松の力でこれを払い除けて走ることは、その法衣の袖が和らかに出でてあるほどにかえって、困難なことでありました。そこで、お松としては、あのすさまじい現場へ走り込むことを遮られたのみか、その現場を見届けることをさえ抑えられてしまった形で、どうすることもできないで、全くその瞬間だけは、蜘蛛の巣にかかった小蝶と同じような運命に置かれました。

二十

これより先、田山白雲が、今日は少し早目に宿へ帰ってしまったのは、不意にやって来た清澄の茂太郎の足もとがあぶなっかしいので、それが心配になるのと、もう一つはかねて約束が一つありました。

仙台の閨秀詩人、高橋玉蕉女史の招待で、今晩あたり松島の月を見ようとの誘いを受けていたものですから、その心がかりもあって帰って見ると、果して玉蕉女史から使がありました。

少し時刻は早いが、観瀾亭の下から船を出すことにしましたから、おいでを願いたい――とのことです。白雲は胸を打ってよろこびました。

「田山先生」

そこへ、茂太郎とムク犬が馳せつけて来ている。