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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

あんまり静かな時が長く続くものですから、兵助親分が急に気になって、「長いじゃねえか」と言った時は、もう遅かったのです。あの田圃の向うを走る犯人の姿が、ありありと誰の目にも見えました。

「それ!」というので追いかけたが、先方の妙に早いこと、早いこと、まるで鉄砲玉が飛ぶようで、稲田の蔭に没入した後は、どっちの方面から、どう探しても、行方きえ判断することもできなくて、この始末。つまり、完全に罪人を取逃してしまったということになるのです。

「なに、丼の中の二枚の小判ですか、それは、どなたも受取りゃしません、丼と一緒に、さきほどまでこの店先に抛り出されてございました」

それだけ聞くと、白雲は、

「そうか」

と言って、棒のように身を立て直すと、そのまま、すっくすっくともと来た松島の方へ歩み去るのであります。

二十三

右の要領をつきとめた田山白雲は、もうこれで、七兵衛の安否そのものだけは充分だと思ったのでしょう、岩切から真直ぐに仙台へ帰ると、お松にも、その旨を言い含めたのでしょう。それから即刻、宿を引払い、自分が主になって、お松、茂太郎、ムクを引具して、小舟で月ノ浦へ帰ってしまいました。