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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
34 白雲の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页
「絵図はあるかな、奥州一国の全図でもよし、この附近の郡村の地図でもよろしい、何でもいいから一つ貸してくれないか」
こう言って宿へ頼むと、
「うちには、いい絵図はござりませぬ――この間、お客様が置いてござった絵図が一枚ありましたはず、あれをごらんに入れましょうか」
「何でもいいから見せてくれ」
「持ってまいりましょう」
女の子が絵図を持って来た。それで見ると、仙台領の南の部分、松島から石巻、牡鹿半島の切絵図――あまり上手でない手つきで、棒を引いたり、書入れをしたりしてある。
「結構結構、少しの間、貸してくんな」
白雲は、その絵図を篤と見入りました。そうして、自分のこしらえて来た図面と参照して、多少の書入れをする。
そのうちに、絵図面の終りの方を見ると、同じ手筆で、
「清澄村 茂太郎所持」
と書いてある。
「おやおや、ここにも茂太郎がいたぜ、同じく清澄村の住人……」
田山白雲は、これを、先頃の笠島の道祖神の絵馬と思い合わせないわけにはゆきません。
思い合わせて見れば見るほど、あれと同じ人間の手になるのです。
そこで、また女中を呼んで、いったい、この絵図を置いて行ったお客様てのは、どんなお客様であったか――え、え、それは、これこれ斯様な人でござりまして、毎日毎日のように出てお歩きになりました。