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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

がつきます。

で、二人の岡っ引は、こうして純粋の奥州語を亭主夫婦と達者に取りかわしていながらも、ジロリジロリと白雲に眼をくれることは以前と少しも変らないが、こっちが存外泰然自若なのに、相当面負けがしているようでもあります。

しかし、お茶を飲んでしまうと、どうしても、この風来の逞しい旅絵師のえたいにさわってみないことには、役目の手前、立去れない羽目になったのは無理もないことです。

そこで、二人の岡っ引は、田山白雲の方へまむきに向って来て、今度は純粋の奥州語に多少の標準弁を交ぜて、つまり、

「貴君は、どなたですか」

こう詰問されたものですから、白雲が、

「拙者は、旅の絵師です」

と答えると、

「剣師――左様でござらば、剣道のお流儀は?」

と先方が反問して来たものです。うむ、では絵師といったのを、剣師或いは剣士と聞きそこねたのだな――いや、これは今にはじまったことではない、剣客と言えば通るが、絵師と言ったんでは通らないことになっているのが、生れついての人相だからいまさら致し方もない。しかし、まあ、どっちでもいいわ、道に剣客に逢う時はすなわち剣客になりすまし、道に絵かきに逢う時は絵かきになりすましている。