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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
34 白雲の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页
それでようやく、白雲の即興の昂奮もどうやら鎮静して、そうして枕につくや、ぐっすりと熟睡に落ち込んでしまいました。
二十六
その翌日、白雲は漫然と結束して宿を立ち出でると、早くも北上川の渡頭の上の小高いところに立って、北上川の北より来って東南にのぼり流るる勢いに眼を拭いました。
「ははア、これが北上川だな――」
白雲はここで初めて、北上川というものの印象を新たにしました。
北上川そのものを見ることは今にはじまったことではないのです。現に昨晩泊った石巻の港が、その北上川の河口にあるので、今日はまたその沿岸を溯って来たのですから、北上川とは絶えず道連れになって来たのに相違ないが、ははア、これが北上川だなと印象を新たにして、例によって限りなき旅心を湧きたたせたのは、この渡頭に立った時が最初であると言わなければなりません。
立って北上川及びその彼方、漠々と連なる陸奥の平野を見ているうちに、白雲は旅心濛々として抑え難く、やがて大きな声をあげて歌い出しました。
感来って吟声が口をついて出でるのは、白雲も元来が多情多恨の詩人的素質を多分に持って生れたのみならず、これは清澄の茂太郎を育てつつある間に、それにかぶれたところもあると見なければなりません。