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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
34 白雲の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页
その白雲の吟懐を、清澄の茂太郎がまた反芻して輪をかけるということになり、即興と出鱈目とに於ては、師弟いずれが本家だかわからないくらいになっているのであります。
今や北上川の渡頭の辺に立って田山白雲が歌い出したのは(むしろ唸り出したのは)――
「三代の栄耀一睡の中にして、大門の跡は一里こなたに有り、秀衡が跡は田野に成りて、金鶏山のみ形を残す。先づ高館にのぼれば、北上川南部より流るる大河也。衣川は和泉ヶ城をめぐりて、高館の下にて大河に落入る。康衡が旧跡は衣ヶ関を隔てて、南部口をさし堅め夷をふせぐと見えたり。偖も義臣すぐつて此城にこもり、功名一時の叢となる。国破れて山河あり、城春にして草青みたりと、笠打敷て時のうつるまで泪を落し侍りぬ。
夏草やつはものどもが夢の跡」
これは、やはりこの土地の形勢によってうつされた文章でないことはわかり切っておりますが、白雲はどうしても、これをこの場で歌ってみたい気持になったのは、「まづ高館にのぼれば、北上川南部より流るる大河也。衣川は和泉ヶ城をめぐりて、高館の下にて大河に落入る」という気象がここでピタリと来たから、それでこの文章をここで高らかに吟じてみたくなったのでしょう。