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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

さりとて、どうも、このままでは引けない、ともかくもぶっつかってみようと、伊達の乙士は細川の甲士に向い、なにげなく、

「さても見事な筆蹟でござるが、拙者もこの道は横好き、なんとこの一巻を、拙者の好事にめでてお譲り下さるまいか」

こう言って持ちかけてみたが、甲士は頭を縦に振らなかった。

「敵将の一番首はお譲り申そうとも、この一巻は御所望に応ずるわけにはいかぬ」

「それは近ごろ残念千万ながら、是非に及ばぬこと」

礼儀から言っても、名分から言っても、先方が譲らないと言う以上、こちらは、どうしても指をくわえて引込まなければならない。ぜひなく陣へ立戻ったが、残念で堪らないから、改めてその一条を主人政宗に向って物語った。

「それは残念無念――そのほうが我に見せたいと思うより以上、おれはその品を見たい、見ずには置けぬ」

そこで独眼竜は馬を駆って、直ちに細川三斎の陣を訪れた。

「突然の推参ながら、たって所望の儀は、さいぜん貴公の家士が稀代の名筆を分捕られたそうな、それを一目拝見が致したい」

「容易き儀でござる」

三斎もそれを否まん由はなく、今し甲士が分捕って齎らしたばかりの一巻をとって、政宗の手に置いた。