轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

これが着いたその夜のことです。夜のことでも、漁村と漁船には点々たる火影が見えないということはなかったのですが、それでも陸地一帯は茫々模糊たる夜の色に包まれている間を、茂太郎は淋しげに見渡して、

「七兵衛おやじが、こっちへ駈けて来るのが、船の上ではよく見えたんだがなあ」

茂太郎としては、珍しく、ほとんど泣き出しそうな声をして、彳みきって動こうともしません。

なるほど、そう言えばそうです。海上遠くメーンマストの上で、茂太郎は、「七兵衛おやじが、走るわ、走るわ」とわめき立てたことがありました。その時の調子と、今日のしょげ方とを比べて見ると、それではあの時のは、檣の上の出鱈目の即興ではなくて、真に、茂太郎の眼では、磐城平から海岸通りを北走する七兵衛の姿を認めたのか。

そんなはずはあるまい。あの時は、陸地を避けて、船はあんなに遠く海洋の沖中を走っていたのだ。四顧茫々として、遠眼鏡を以てすら陸地がいずれにあるかさえわからなかったその中で、茂太郎が仙台領を走る七兵衛の姿を認め得られるはずはないのです。

しかし、あれが即興の出鱈目であるとすれば、ここへ来て、こんなに失望する理由もまた消滅しなければならないのではありませんか。