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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
34 白雲の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页
は必ずしも御当人に、航海中たくわえられた反抗心があってそうさせたのではない。あのだみ声の呂律でも、足踏みのしどろもどろでも分る通り、酒という魔物が手伝って、あれをああさせているのだ。
それにしても、誰が酒を飲ませた。船中では一切飲ませないことにしてあったはず――飲みたくも、飲ませたくも、酔わせるだけの分量は貯えてなかったはずなのに。
ははあ、では、あいつ待ちきれなくなって、早くもこっそりと小船に乗るかなんぞして、岸へ抜けがけをして、あのアルコール分を身体の中へ仕込んで来たのだな、そうと解釈するほかはない。
そうだ、そうしてアルコール分をしっくりと体内に仕込んで帰って、いい気持で寝床にもぐり込むはずのところを、その仕込んだ分量が超過したものだから、ついにあの呂律となり、あのステップとなってしまったのだ。
ちぇッ――世話の焼けた奴だなあ。
まず、最も近い室の房州出の船頭の二人が眉をひそめると、同様の思いが、お松にも、駒井の室へも響かないということはありません。
しかし、マドロスにこうもアルコール分が廻った場合に、この船内では遺憾ながら、それを制裁する実力を持ったものが一人もありませんでした。