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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

甲板に立つ人が幾つの眼を集めて見たからとて、こちらへ来る人の影は――といううちに、土地の海女や漁師は別として、田山らしい、白雲らしい人の影は、いずれにも見えはしない、茂公の出鱈目がはじまった、これでまあ、天気も変らないで済む――といったような、一種の気休めを与えるだけの効はありました。

十一

茂太郎の予報から約一刻も経て、果して田山白雲の生のものが、月ノ浦の港の浜辺に現われて、船をめがけて大きな声をあげました。

心得て、ボートが迎えに来る。親船について、白雲は駒井の案内で、なにもかも目新しく、物珍しい目で船の内外を見廻しながら、船長室に伴われて、そこで二人の会談がはじまりました。

介添には、お松が時々出てあしらう。

「駒井氏、せっかくここまで来たからには、どうして、目と鼻の間の石巻へ船をつけないですか――月ノ浦なんて、こんな辺鄙なところへわざわざもやったのは、どういう了見ですか」

「左様、この月ノ浦を選んでこの船をつけたのには相当の理由があるのです。今こそ、石巻や塩釜に比べて比較にならない月ノ浦だが、歴史上の由来は深いものがある。昔、伊達政宗が、支倉六右衛門をローマへ使者として遣わす時分に、船出の港として選んだのがこの月ノ浦だ」