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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

もうかなりの夜更け、先晩、田山白雲が仙台城下で、美にして才ある婦人と語って興が乗り、ようやく離れ座敷で眠りに落ちようとしたのとほぼ同じぐらいの時刻でありました。

唐戸のような大きな障子が、すうーっとあいて、有明の行燈の中が、にわかにまたたきをはじめました。

「誰じゃ」

その時の駒井の驚き方も、あの時の白雲の驚き方も全く同じでありました。違うのは、パッと睡眼を醒すと共に、白雲は枕許の太刀を引寄せたけれども、駒井は蒲団の下の短銃へ右の手が触っただけのことでした。

のんのんと瞬きをしつづけている有明の行燈の下に、人が一人、うずくまっている。

「御免下さりませ」

「そちは、何者じゃ」

「お静かにあそばしませ」

「何しに来た」

「駒井の殿様、わたくしめでござります」

「や、七兵衛ではないか」

うずくまっていて頬かむりの頭を上げて見せた面は、駒井としては、全く見紛うべくもない七兵衛おやじです。

「深夜、お騒がせ申して相済みませぬが、七兵衛は只今、この奥御殿の天井裏の忍びの間、武者隠しと申すのに暫く隠れておりますが、今夜、殿様のおいでが、願ってもない仕合せでございました」

「どうしたというのだ、何で、そちはこんなところの天井裏に隠れている。