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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

とうとう、近づきかねたお松は、いったん瑞巌寺の外へ出てしまって、法身窟のあたりの小暗い杉の中を歩み歩み行きました。

「どうも仕方がない、あの桶屋さんに追立てを食ってしまったようだ、なにも桶屋さんがわたしの仕事に意地悪をしようとしてあそこにいるわけではないが、わたしにはそうとしか思われてならない、ただの桶屋さんにしては、なんだか気が置け過ぎるのが、つまりわたしの疑心暗鬼というものでしょう、あの桶屋さんに圧迫されて、知らず識らずわたしははみ出されたようなことになってしまった――どうも仕方がない、もう少し、よそを歩いて、また来てみましょう」

お松はこんなひとり言を言って、お弁当を抱えたまま、まもなく松島の海岸の方をぶらつきはじめました。

お松がこうして臥竜梅の下から圧迫され、ハミ出されたのと反対に、庫裡からひょっこりと身を現わしたのは田山白雲でありました。

白雲は極めて気軽に出て来ましたが、手には写生帖と矢立を持って、早くもこの臥竜梅の姿に目をとめながら、近づいたり、やや遠のいたりして、ためつすがめつ、この木ぶり、枝ぶりを見ているのです。

その有様は虚心坦懐で、眼中にただ、梅の木の木ぶり枝ぶりあるのみ。