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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

「お前はどうして来たんだ」

「あたいは、舟で来ました」

「そうか」

「ムクも来たいというから連れて来ました」

「駒井船長のゆるしを得て来たのか」

「うむ、いいえ――」

「黙って飛び出して来たな?」

「済みません」

「おれに詫びを言っても仕方がない、お前の悪い癖だ」

「だって、ムクがついているからいいでしょう?」

「ムクというのはその犬のことか」

「ええ」

「誰がついて来ようとも、だまって舟を出て来ることはいけない」

「でも、金椎さんにだけことわって来たからいいでしょう?」

「金椎に? あれはつんぼだ」

「だって――」

「まあ、仕方がない、金椎君にでも、ことわって出て来たんならいいとして――」

「ねえ、先生」

「何だ」

「大きなお寺だね」

「うむ、奥州第一等のお寺だ」

「広いお庭だね」

「うむ、広い」

「七兵衛おやじはどこにいるの」

「ナニ?」

白雲は、またしてもあたりを見廻しました。この小僧が、七兵衛、七兵衛と無遠慮に言うのが気がかりになってならない。その度毎に、あたりを見廻したが、幸いにも誰も聞き咎める者はない、ありとすればあの桶屋のおやじだけだが、桶屋のおやじがどうなるものか。

「ねえ、先生、お松さまはどこにいるの」