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だいぼさつとうげ

大菩薩峠10

中里 介山

中里介山『大菩薩峠10』。同一底本的分册已合并为一书。收入:大菩薩峠、大菩薩峠。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 285,635 字 · 558 页

青空文庫

かくてこのままマドロス君は、駒井一家の家庭の人として包容されるらしいが、駒井甚三郎の心では、これはこれで、また利用の道がある、当分は造船工を手伝わせ――と心に多少の期待を置いているらしい。

こうして席上はかなり陽気でしたけれど、ひとり、耳の聞えない金椎だけが心配そうに、手帳と鉛筆とを持って、岡本兵部の娘の前へ出て来て、

「茂ちゃんは、どうしました?」

と言いながら、手帳と鉛筆をさしつけると、兵部の娘は、直ちに鉛筆を取って認めました、

「海岸ヲ西ノ方ヘ向イテ行ッテシマイマシタ、ソノウチ帰ルデショウ」

それを見ると、金椎の眉根が不安の色に曇り、思わず窓の外から海の方を見ますと、真の闇ながら、空模様が尋常でない。

十九

宇津木兵馬は、あすは中房の温泉に向けて出立しようと、心をきめて寝につきました。

今頃、中房へ行くといえば、誰も相手にしない。案内者ですらも二の足を踏んで引留めるくらいだから、これはむしろ、誰にも告げないで、単騎独行に限ると思いました。

仏頂寺らの豪傑連はどこを歩いているか、ほとんど寄りつかない。そこでこの連中とは同行のようなものだが、おのおの自由行動を取っているのだから、断わる必要はないようなものの、一応は置手紙をしておこう――それと、防寒の用意だけは多少して行かねばならぬ。