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だいぼさつとうげ

大菩薩峠10

中里 介山

中里介山『大菩薩峠10』。同一底本的分册已合并为一书。收入:大菩薩峠、大菩薩峠。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 285,635 字 · 558 页

青空文庫

惣髪を、普通の百姓に見るような髷に直してしまえ、と註文であります。

床屋が当惑しているに頓着なく、道庵は、鏡に向って気焔を吐き、

「百姓に限るよ、百姓ほど強い者はねえ……いざといえば、誰が食物を作る。食物を作らなけりゃ、人間が活きていられねえ。その生命の元を作るのは誰だ――と来る。この理窟にゃ誰だってかなわねえ、武者修行なんざあ甘えもんだ、おれは今日から百姓になる!」

さては先生、先日の芝居で、信州川中島の百姓たちが、大いに農民のために気を吐いたのを見て、忽ち心酔し、早くも武者修行を廃業する気になったものと見えます。

つまり先生の考えでは、武芸で人をおどすなどはもう古い、食糧問題の鍵をすっかり自分の手に握って置いてかからなければ、本当の強味は出て来ない――というようなところに頭が向いて、自然、一切の造作をこしらえ直す気になったものと見えます。

床屋は、やむなく、註文を受けた通りに造作にとりかかる。惣髪は惜気もなくそり落して丸額にし、びんのところはグッとつめて野暮なものにし、まげのところも、なるべく細身にこしらえ上げて、やがてのことに、百姓道庵が出来上ってしまいます。