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だいぼさつとうげ

大菩薩峠10

中里 介山

中里介山『大菩薩峠10』。同一底本的分册已合并为一书。收入:大菩薩峠、大菩薩峠。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 285,635 字 · 558 页

青空文庫

これは単に女というものに対するの未練執着ではないのだ、義の問題だ、人間の道だ。

女の性質がどうあろうとも、こうあろうとも、むざむざと食い物にせらるべき運命をよそにして、ひとり悠々閑々の旅行ぶりが続けられるか、続けられないか。

兵馬はにわかに腰の刀をゆり上げて、松本街道の一本道を、駈足で走り出しました。

八

雪に埋れんとする奥信濃の路とは違い、ここは明るい南国の伊豆、熱海街道の駕籠の中に納まって、女軽業の親方のお角が、駕籠わきについている、いつも、旅には連れて出るいなせな若い衆に向って言うことには、

「ねえ、政どん」

「はい」

「向うに見える山はありゃどこだろうねえ」

「左様でございますねえ」

右に青い海を隔てて、黛のようにかすむ山を主従がながめて、

「大方、上総、房州あたりだろうと思うんでございます」

若いのが、親方から尋ねられて、覚束なげに返答をすると、親方のお角が、

「そうだろうねえ、上総、房州の方角だと、わたしも、さっきからそう思って眺めているところさ」

上総、房州では一けた違う、伊豆の半島の東南から見た眼前の突出は、当然三浦半島でなければならないのだが、この二人の頭では、陸地が海へ突き出していさえすれば、それは上総、房州に見えるものらしい。