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だいぼさつとうげ

大菩薩峠11

中里 介山

中里介山『大菩薩峠11』。同一底本的分册已合并为一书。收入:大菩薩峠、大菩薩峠、大菩薩峠。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 368,567 字 · 720 页

青空文庫

そうでなければ、あらかじめ祭主側からお寺へ頼んでおいて、この墨汁を作らせた予備行為であります。

それはどちらでもかまいません。墨汁そのものが、誂向きに、この場へ出来て来さえすれば滞りはないことでありますが、次の問題は、しからばこの墨汁を、何に向って、何物を書こうの目的に供するかであります。

余りでもって住職のために、唐紙へけえてやることは先生の御承諾になっているところだが、余沢でない、本目的に向っての擂鉢の墨汁は、果して何に使用するものか――

時なる哉、宇治山田の米友が、二メートルの木の香新しい削り立ての木柱を軽々とかついで、この祭の座に姿を現わしたのは――

五

米友が距離に誤まられて、意外に時間をつぶしたことの申しわけをしているのを、道庵は空に聞き流し、それより道庵の揮毫がはじまります。

さいぜん、すり置かれた墨に、新たに筆を浸して、それをただいま、米友が運び来った二メートルの削り立ての木の香新しい木柱に向って、道庵先生が思案を凝らしました。

事態が少しずつ、追々と分明になって参ります。竹藪の外にも、中にも、本尊が無いと心配した最初の杞憂もどこへやら、新たにこの木柱に向って、信仰の象徴が掲げられるわけですから、その現わす文字の如何によって、今宵の祭典の理由縁起も分明になるわけですから