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だいぼさつとうげ

大菩薩峠16

中里 介山

中里介山『大菩薩峠16』。同一底本的分册已合并为一书。收入:大菩薩峠、大菩薩峠。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 268,946 字 · 520 页

青空文庫

「はい」

と、また踏みとどまってこちらへ向きながら返答した賢母は、言葉は無論、足もとに至るまで前同様少しの狼狽さえ見えません。

「長浜までまいります」

行先までをはっきりと名乗りました。

「長浜へ、長浜の町では、今晩何か物騒がしいようです」

「はいはい、陣触れがございます」

「陣触れが」

「はい、それであの通り篝を焚いているのでありまする」

「ははあ。それはそうと、拙者もその長浜まで参りたいと存ずるのだが、道がちと不案内でしてな、御一緒に願われまいか」

黒い姿は存外静かに、物やさしい頼みぶりでしたけれども、それだけにどこか、つめたいところがあり、いっそう無気味なる物言いと受取れないではないが、提灯の賢母はいっこう物に疑いを置くことを知らぬ人と見えて、

「それはそれは、長浜はあの通りつい眼の下に見えておりまするが、ここからはまた、道順というものもござりまして、それは私共がようく心得ておりまする故、失礼ながら御案内をいたしましょう」

「では頼みましょうか」

そこで、提灯がまた動き出すと、黒い姿もむくむくと動いて来て、母と子との間に割り込むというよりは、二人が中を開いて、この人を迎えるような態度をとり、そこで提灯の母が先に、十二三になる凜々しい男の子が殿という隊形になりました。