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だいぼさつとうげ
大菩薩峠16
中里 介山
中里介山『大菩薩峠16』。同一底本的分册已合并为一书。收入:大菩薩峠、大菩薩峠。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 268,946 字 · 520 页
手答えが無いだけ張合いも無いと言えば言えるかも知れないが、相手がまたおとなしいだけに、こちらもまた思う存分言ってのけられる自由があると見えて、福松どのはかさにかかりました。
「ほんとにイヤな奴、キザな奴、あのくらいイヤな奴も無いものですけれども、でもわりあいに度胸があるんですよ、お宝の切れっぱなれもいい方でしてね、やっぱり男はね……」
おやおや、また風向きが変って来たぞ。兵馬が黙って聞いていると、
「色男てものには、お金と力は無いものと昔から相場がきまっているのに、あのイヤな奴、妙に色男ぶるくせに、あれで度胸があって、切れっぱなれがよくって、で、口前がなかなかうまいものだから――口惜しいわ。わたし、どうも、とうからお蘭さんと出来てるんだと睨んでいるのよ。相手がお蘭さんだからたまりませんわね、あの男前と……口前じゃたまりませんよ――」
福松どのの悲泣がいつしか憤激となって、最初は口でけなしていたがんりきなるやくざ野郎を、結局、度胸があって、お金の切れっぱなれがよくって、口前がいい、色男の正味を肯定するような口ぶりになってしまうと、今度は鉾先がお蘭さんなるものの方に向って、しきりにそのお蘭さんをくやしがるものですから、兵馬は自然、過ぐる夜のことを思い起さないわけにはゆきません。