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たいうのぜんじつ
大雨の前日
伊藤 左千夫
「ホトヽギス 第十四卷第一號」1910(明治43)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,470 字 · 5 页
予は殊に児供等の前で其気象台員の談話を読むのが何となく苦痛でならない。それで予は眼を転じて別項を読み始めた。十四の児はもどかしくなってか、
「お父さん『あらし』になるの……」
いうと等しく、
「あらしになりゃしないねいお父さん」
と、十二のが口出した。
「お父さん水が出るかい……」
こういうのは七つの児であった。
「大丈夫ねえお父さん」
十二のが二人の詞を打消す様にそういった。
「うん大丈夫だよ、新聞にあることは当てになりゃしないよ」
父はこう云わない訳に行かなかった。
「ほんとに大丈夫お父さん……」
十四のは不安そうに父の顔を見上げる。
「うん雨は少し降るだろうけれどね大風は吹きゃしないだろうよ。そっだから大丈夫だよ」
「新聞にそう書いてあるの……」
「うん」
「そらえいこった」
七つのはさすがに安心してこう叫んだ。
「わたい大水が出れば大島へ逃げていくだ……」
初めから大丈夫だねい大丈夫だねと云ってた、十二のが、矢張安心し切れないと見え、そう云うのであった。予はしょうことなしに、新聞の記事をよい加減に読み聞かして、これだからそんなに心配しなくともえい、と賺した。併し予の不安は児供等を安心させるのに寧ろ苦痛を感ずるのである。