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てんぐ

天狗

大坪 砂男

「宝石 七、八月合併号」岩谷書店、1948(昭和23)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,545 字 · 19 页

青空文庫

があまり深く沈没したのでは所期の目的を達することが出来ず、且は放擲力の実際と計算上との誤差をも知るため、深夜の月明を利用して体重に等しい石を式通りの方法で発射してみた。結果は竹の弾力がやや弱くて、中心より五Mも手前に落下したが、石につけておいた縄の目盛から、八〇CM以上に沈む心配はないとわかり満足すべきものであった。喬子が飛ぶ場合は石より空気の抵抗も多いし、入念な計算に基いて綱の張り方に修正を加えた。

尚、重心が中央に近い物体は放擲された瞬間の切線の方向にその儘の姿勢で落ちるのが普通で、頭から先に落すためには、弾丸のように廻転を与えるか、矢のように羽根を附けておかねばならない。併し喬子の長い洋服の裾は充分この矢羽根の役を果してくれるだろう。

整備は完了してその日となった。

早朝起床。女湯に人影のないのを見定めて独り男湯に沈んで時の来るのを待った。宵っ張りを文化人の資格と考える客どもは七時より早く浴室に現れることはなく、喬子の見栄はことさらこの人気のない時刻を選んで裸身となるのだ。

六時十五分。廊下を渡って来る静かな足音。ついで、磨硝子の朝日影に喬子のシルエット。