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あまくさのはる
天草の春
長谷 健
「九州路抄」日本交通公社、1948(昭和23)年9月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,293 字 · 15 页
その情熱は、はげしい火を吐くようなものではないが、静かに落付いた情熱である。私などは、もつとも平凡な常識人だから、ともすれば、フジツボなどという瑣小な動物の研究に一生を賭ける人の常識を疑いたくなる。ところが、K氏の話を聞いている中に、いつか私は、それ等学究の徒が、世俗ともつとも縁遠い研究に没頭する所以が、単なる趣味などから出発したものでない、ということを理解しはじめた。尤も船底の舟喰虫の駆除を、毒物塗料によるか、機械的設備によるか、将又アメリカのようにDDTによるかは、彼の研究の分野ではないが、その前提条件として、それ等の生態を研究することは、決して学究の徒の本来の使命から、逸脱するものではない、という信念が、その情熱をかきたてているようであつた。
なお、めすのからだの中におすが棲息するという、ケハダエボシという動物の研究なども、興味あるものであつたが、ことがあまりに専門的にわたると、私たちには、ただなるほどなるほどと、分かつたような顔をするより外はなかつた。
水族館は、ただ形ばかりといつた程度で、特筆するほどのこともなかつたが、一般人の教養と常識を高めるという意味あいから、折角の設備を活用してもらいたいと思つたのは、私だけではあるまい。