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あまくさしろうのようじゅつ

天草四郎の妖術

国枝 史郎

「ポケット」1925(大正14)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,401 字 · 17 页

青空文庫

空の一所に雲がある。その雲の中へ棒の先は軈て這入って行きました。

「さて」

と老人は笑い乍ら見物をジロジロ見渡しましたが

「もう徐々金を投げても宜かろう。容易に見られぬ芸当じゃ。何をニヤニヤ笑っているのだ。一文無しの空尻かな。只匁で見るつもりかな。そいつは何うも謝るの。……それとも芸当が気に入らぬか? よしよし夫れでは最う一息アッという所を見せてやろう。それで今日はお終いだ。もし芸当が気に入ったら幾何でもよい金を投げろよ。俺も大道芸人じゃ。只見されたでは冥利に尽きる」

斯う云い乍ら老人は屹と手許を睨みました。

二

右の掌には依然として棒が立って居るのです。そうして棒の突端は雲に隠れて見えません。

と、老人は掌の棒を窃と岩の上へ置きましたが棒は岩を基礎にして依然として雲に聳えて居ます。

「さあ、よくよく眼を止めて俺の為る所を見て居るがよい。投げ銭抛り銭は其後の事じゃ」

老人はニヤニヤ笑い乍ら相変らず大口を叩きましたが、つかつかと棒に近寄りますとひょいと両手を棒に掛けツルツルと一間ばかり登りました。棒は倒れも撓りもしません。依然として雲表に聳えて居ます。