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てんま

天馬

金 史良

「文芸春秋」1940(昭和15)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,407 字 · 70 页

青空文庫

「はあ」ボーイはいささかけおされて恐縮した。「そのう何でも雑誌社の方でしょうか」

「雑誌社の方?」

はたと悪い予感に襲われてから慌しく問い返す玄竜の顔には、明らかに狼狽したような焦だたしい不安な影がかすめ通った。それはきっと大村に違いない。大村だとすればこれは大変だと思ったのである。それでせき込んで質ねた。

「U誌の大村君じゃないんですか?」

「それは、分りませんよ」と今度は横合いの方から他の中年のボーイが恰で怒ったように叫んだ。実際内地(日本、以下同じ)の芸術界から誰か知名の人でも来ると、ぐうたらな文学くずれ達がいかにも朝鮮の文人を代表するような面で押し掛けて来るので、ボーイ達はうんざりするのだった。今も田中が大村やある専門学校教授とに伴われ、後には朝鮮人のそういった文学くずれを四五人ぞろぞろ随えて出て行った後である。玄竜は殊にこういう訪問の癖がひどくて毎日のようにお客を訪ねて来るので、ボーイ達でさえよほど彼を持て余している訳だった。「一々それまで覚えておれませんからね」

「へ、成程これはどうも、へへへそうでしょうな」

と、玄竜は云いつつ頭に手をやって卑屈そうに笑うのだった。