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てんま
天馬
金 史良
「文芸春秋」1940(昭和15)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,407 字 · 70 页
……へ、これは有難え、有難え」
片方の手でばら銭を捜していた玄竜が白銅貨を二つ三つ掴み出してぽんと投げ出したのだ。百姓は狂喜して頭を地につけ拝んだ。それを尻目に玄竜は黙ったまま桃の枝を肩にかけると人々をかき分けるようにして再び人混みの中へ出て来た。その時彼は自分の恰好からか不意にそれといった脈絡もなしに十字架を負えるキリストを憶い出し、自分にもその殉教者的な悲痛な運命を感じようとした。自分こそ或る意味では朝鮮人の苦悶や悲哀を一上身に背負って立ったような気がせぬでもなかった。成程朝鮮という現実であればこそ、彼のような人間も生れ出、且つ社会の中をのさばり廻ることが許され得たからである。混沌とした朝鮮が僕のような人物を必要として生み出し、そして今になっては役目が尽きると十字架を負わせようとするのだ、彼はそういう自覚に立ち至ると益々悲しみが胸をつき上げて来て、どうっと慟哭したい位だった。けれどそういうことも束の間、歩道一杯の人々が驚いたように皆自分の異様な恰好を眺めているのに気が附くと、寧ろ今度はけろりとしていささか得意にさえなったのである。へっぽこ詩人の女郎奴、貴様がついて来たら本当にこの僕の天外な像が分っただろうに、莫迦な女郎奴と彼は心の中で文素玉を憎々しげに罵った。