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てんま

天馬

金 史良

「文芸春秋」1940(昭和15)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,407 字 · 70 页

青空文庫

夜店の前は押すな押すなの込み合いである。先からの乞食の子供達は面白そうに五六名後をついて行った。その中に突然前の方で喧嘩が始まったとみえ騒ぎ出したので、彼は避けるようにして少しばかり戻って来ると、イエス書館の横から折れて薄暗い小路をはいって行った。乞食の子供達はこの時とばかりもう一度彼の傍へまつわりついて来て手を出しながら、

「旦那、恵んで頂戴」

「恵んで頂戴」

と哀れっぽい声を絞った。彼はつい気が滅入ったようになって銅貨をばらばらと五六枚投げ与えた。子供達は奇声を上げ暗がりの中で頭をお互いぶっつけ合いながらもがき出した。玄竜はそれを振り返ってひひひと嗤いかけたが、ふっと涙がこみ上げて慌てて腕を上げてふいた。

裏小路に出ればそこは所謂鐘路裏で、カフェー、バー、立飲屋、おでん屋、麻雀屋、周旋屋、飲食店、旅館等が、目をぴかぴか光らせたり、口を開けたり、尻ごみしたり、地べたにひっつくように蹲んだりしている。ぎーぎーとレコードが騒々しく辺り一面で唸り立て、洋服や白い着物がうろつき廻っている。景気のいい商人や、総督府あたりの朝鮮人雇員、無職で金のある青年、モダンボーイ、そしてカフェー音楽家、バーマルキスト等が、夜はよくこの界隈で気焔を上げるのだった。