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てんま

天馬

金 史良

「文芸春秋」1940(昭和15)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,407 字 · 70 页

青空文庫

と田中に向って云った。彼は玄竜が大村を雷のように怖れていることを知っているからである。

「え、大村君?」果して玄竜は一時に酔いがさめたように目を大きくしてぐっと体を起した。「大村君、大村君と一緒だったんですか?」

「うん、そこらで何か買物をすると云っていたがね」

怪訝そうな顔をしてから答える田中の話を聞いて、あ、これはいけないと慌てて、

「そうなんだ」と訳の分らぬことを叫んだ。「だから大村君と力を合わせて、朝鮮民族を改良するために努力しているんだ。問題は簡単なんだ。朝鮮人悉くが今までのような固陋な思想からぬけ出て、東亜の新事態を確認し、そしてひとえに大和魂の洗礼を受けることなんだ。それがため僕は人から気違いとまで云われながらも、大村君のU誌にいつもセンセイショナルな論文を書き立てたんだ」そこで急に声をひそめて首を突き出し、

「大村君は僕のことを何とも云わなかったのかい?」と訊いた。

「いや別に……」

と田中はお茶をにごしたが、玄竜は又急にもとのような調子にかわって、

「大村君は実に当代稀にみる立派な奴だよ。だから僕など民間にいながら率先して全力を尽し助けているんだ。