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「ダブックウ」ひょうりゅうき

「太平洋漏水孔」漂流記

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1940(昭和15)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,264 字 · 37 页

青空文庫

海面は、黒くたかく頭上にそびえ、風と飛沫と囂音で一分の休息もない。そのなかで、私たちはだんだんに退化して、いまに鳴き亀とおなじようになるだろう。

ところが、きょう夜にかけて大颶風がやってきた。そのあと、朦気が吹き払われ清涼の気をおぼえると、今まで忘れていたこと、感じなかったこと、また、私が是非しなければならぬことが、まるで堰切った激流のように迸しってくる。私は寸時でも、脳力を恢復したことを悦ばねばならない。

それは、私が痴愚になったという第一の証拠だが、ハチロウのことをすっかり忘れていたのだ。私とナエーアが、この水面下の島で朽ちはててしまうのはよし。しかし、ハチロウをここで鳴き亀同様の存在にするということは、まったく何としても忍びないことなのだ。

私は、今夜ハチロウを外海へ出そうというのだ。それには、渡り鳥である鰹鳥を利用する。さらに“Cohoba”をハチロウにもちいて泥々に酔わせて置く。そして、そのハチロウを入れた籠を鰹鳥にひかせる。おそらく、五羽の鰹鳥はその籠をひいて、底をかすかに水面に触れながら、まっしぐらに突っ切るだろう。

愛は、ハチロウをきっと守るにちがいない。