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めおとぜんざい
夫婦善哉
織田 作之助
「海風」1940(昭和15)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,643 字 · 61 页
一宴会、夕方から夜更けまでで六円、うち分をひいてヤトナの儲けは三円五十銭だが、婚礼の時は式役代も取るから儲けは六円、祝儀もまぜると悪い収入りではないとおきんから聴いて、早速仲間にはいった。
三味線をいれた小型のトランク提げて電車で指定の場所へ行くと、すぐ膳部の運びから燗の世話に掛る。三、四十人の客にヤトナ三人で一通り酌をして廻るだけでも大変なのに、あとがえらかった。おきまりの会費で存分愉しむ肚の不粋な客を相手に、息のつく間もないほど弾かされ歌わされ、浪花節の三味から声色の合の手まで勤めてくたくたになっているところを、安来節を踊らされた。それでも根が陽気好きだけに大して苦にもならず身をいれて勤めていると、客が、芸者よりましや。やはり悲しかった。本当の年を聞けば吃驚するほどの大年増の朋輩が、おひらきの前に急に祝儀を当てこんで若い女めいた身振りをするのも、同じヤトナであってみれば、ひとごとではなかった。夜更けて赤電車で帰った。日本橋一丁目で降りて、野良犬や拾い屋(バタ屋)が芥箱をあさっているほかに人通りもなく、静まりかえった中にただ魚の生臭い臭気が漂うている黒門市場の中を通り、路地へはいるとプンプン良い香いがした。