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めおとぜんざい

夫婦善哉

織田 作之助

「海風」1940(昭和15)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,643 字 · 61 页

青空文庫

殿様のおしのびめいたり、しんみり父親の油滲んだ手を思い出したりして、後に随いて廻っているうちに、だんだんに情緒が出た。

新世界に二軒、千日前に一軒、道頓堀に中座の向いと、相合橋東詰にそれぞれ一軒ずつある都合五軒の出雲屋の中でまむしのうまいのは相合橋東詰の奴や、ご飯にたっぷりしみこませただしの味が「なんしょ、酒しょが良う利いとおる」のをフーフー口とがらせて食べ、仲良く腹がふくれてから、法善寺の「花月」へ春団治の落語を聴きに行くと、ゲラゲラ笑い合って、握り合ってる手が汗をかいたりした。

深くなり、柳吉の通い方は散々頻繁になった。遠出もあったりして、やがて柳吉は金に困って来たと、蝶子にも分った。

父親が中風で寝付くとき忘れずに、銀行の通帳と実印を蒲団の下に隠したので、柳吉も手のつけようがなかった。所詮、自由になる金は知れたもので、得意先の理髪店を駆け廻っての集金だけで細かくやりくりしていたから、みるみる不義理が嵩んで、蒼くなっていた。そんな柳吉のところへ蝶子から男履きの草履を贈って来た。添えた手紙には、大分永いこと来て下さらぬゆえ、しん配しています。一同舌をしたいゆえ……とあった。