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きだんクラブ〔せんごばん〕
奇談クラブ〔戦後版〕
野村 胡堂
03 鍵
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,713 字 · 28 页
「このぺーパーナイフは?」
係りの警部は気を取直して聞きました。
「隣の部屋――私の書斎に置いてあったものです」
卓二は慎み深く応えます。
「書斎の鍵は?」
「寝室と同じ鍵ですが、何時も夜分はこちらから閉めて置きます」
「――――」
警部は黙って書斎に通ずる扉に近づき、そのハンドルに手を掛けましたが、厳重に締っている様子で、押しても捻ってもビクともしません。
スタンドの側にあった、ニッケル鍍金の鍵を持って来て開けると、扉はなんの苦もなく開いて、八畳敷ほどの洋間の書斎が、窓から入る春の陽に照らされておおうところなく一と眼に見渡されます。其処は滅多に使わないらしく、素より証拠になるような物は一つもありません。
もう一度寝室へもどった係官達は、部屋中の指紋を念入に検出しました。殺された夢子の指紋の外には、主人の小杉卓二と婆やのお倉のがあるだけ、外に見事にうずを巻いた指紋が、あちこちに検出されましたが、それは多分、四日前に死んで、本人の望み通り東京から少しく離れた、都下の村の寺に葬られた夫人由紀子のものだろうということになりました。
その寺は由紀子の里方の菩提寺で、由紀子の親達や兄弟が葬られていたので、夫から心身共に離れた由紀子が、自分の遺骸を横たえる場所として選んだのも無理のないことでした。