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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

01 第四の場合

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,195 字 · 22 页

青空文庫

フィナーレ

その頃は旅行も楽でしたし、何処へ行くにしても、お米の通帳も、異動申告も要らなかったのです。

それから十何年」

フィナーレ

環玉枝はプツリと言葉を切ったのです。何やら恐ろしい感慨に囚えられて、声が喉に詰ったのでしょう。次に出たのは続く言葉ではなくて、ハラハラと壇上にそそぐ涙でした。

「嘘だ、嘘だ」

不意に、会場の隅の磯上伴作は起ち上りました。恐ろしい感情に興奮して、異常な顔は火の如く燃えます。

「いえ、皆んな本当です。――そして志津子と千束守は、社会からも芸術からも見捨てられましたが、恐らく百姓夫婦のような健康を作り出して、幾十年の後、『第一の場合』即ち自然死に恵まれることでしょう」

「嘘だ、嘘だ、何んという出鱈目だ」

磯上伴作は突っ立ったまま、まだ拳を振って居るのです。

「いえ皆んな本当です、この環玉枝が生きてこの壇に起って居ると同じように、志津子は北海道の果てに、健やかに暮して居るのです。もう絵も描きません。歌も歌いません。四季とりどりの大観は、大自然のキャンバスに、神様が御自分の手で描いてくれます」

「嘘だ」

「まだ信じては下さらないのですか、それでは申しましょう。