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おくのうみ

奥の海

久生 十蘭

「別冊週刊朝日」1956(昭和31)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,005 字 · 26 页

青空文庫

諸国一般、飢饉にいためつけられ、生死の苦しみをしているうちに、津軽、出羽、越後は平作で、陸奥の半田から銀が出、宮古の沖には捕りたてもならぬほどくじらが寄り、米大尽やくじら分限が大勢できあがった。

京、大阪の女衒どもは、わずかばかりの金穀で貧乏公卿の息女を買い落し、みちのくの果てに送りだしたが、うそかまことか、その中に、烏丸中納言の息女と名乗るのがいたという話なのである。

八月はじめの大風の夜、出窓から投げこまれた金のなぞは、解けきれぬまま、心に淀み残っていたが、その話を聞くなり、さてはと思いしめられることがあった。

金十郎は血相を変えて京都に馳せのぼると、上乗りに聞いた女衒宿を、八条猪熊でたずねあて、江戸品川の元宿へ、品物を送り届けて帰ってきたばかりという、ずるそうな面をした才蔵をとっておさえた。

脅しすかして問い詰めると、才蔵は頭を掻いて、文らしいものを預って腹巻へ落しこんで行ったが、なにしろあの大荒れなので、雨と汗のしめりで、糊のように溶けてしまった。これでは用にたつまいと思って、金だけ投げこんだが、文はとってあるから、読めるかどうか見てくれと、手箱から紙くそのようになった封じ文をつかみだしてよこした。