轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

おくのうみ

奥の海

久生 十蘭

「別冊週刊朝日」1956(昭和31)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,005 字 · 26 页

青空文庫

夢の中で夢を見ているようで、金十郎にはどうしても現実のこととは思えない。このせつは書き物が山積し、御用所から下るのはたいてい夜になるが、帰れば空家が待っていそうで、長屋に入る前に、いちど出窓からのぞいて見るのがくせになった。

東の奉行所の角を鍵の手に曲ると、土蔵腰の上にずらりと長屋の出窓が並んでいる。

その曇ったような空に雲篭の丸い月が出ている。金十郎は懐手をしながら、出窓を見あげていたが、いつもの癖が出て、駒止石の上にあがって、荒格子の中をのぞいてみた。

八畳、六畳の二間つづき、それに納戸という浅間なつくりで、そこからのぞけば、玄関まで一と眼で見とおしである。八畳の置床の前に、布巾をかけ箱膳を出し置き、ちかが丁字になった灯芯を切っている。馴れない仕事でたどたどしい。はさみを動かすたびに、桜小紋の薄袷の胸のあたりが、明るくなったり暗くなったりする。

つい半月ほど前、古びた調度にかこまれ、蘇芳色の小袿を着て、几帳の陰に坐っていた。金十郎の瞼の裏に、そのときのおもかげがはっきりと残っているのに、水色の手柄をかけた丸髷を結い、繻子の帯をしめ長屋の青女房になりきっているのがふしぎでならない。