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おくじょうねんだけのぜってんにたつき

奥常念岳の絶巓に立つ記

小島 烏水

「中學世界 第十卷第七號」博文館、1907(明治40)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,541 字 · 11 页

青空文庫

朱樺は黄金色とかわる。

桔梗色に濃かった木曽御嶽の頭に、朝光が這うと微明として、半熱半冷、半紅半紫を混ぜて刷く、自分は思った、宇宙間、山を待ってはじめて啓示される秘色はこれであると、噫、何ぞ紫の筑波を説かん。

天は愈よ明るい、氷の海は一層の白を加うると共に、一分の硬味を減じて来た雪になったのである、玉屑累々ともいうべき空に懸れる雪の大路を無形の手で、橇を縦横に掻き廻しはじめたと見え、捏ね返した痕跡が割れ目を生じたころは、雪は一方に堆く盛り上られ、一方では掬われたようにげっそりと凹む。

時に四時四十七分、東方より金芒爛として飛ぶ、槍も穂高も、半肩以上は微黄となり、以下は大天井岳をはじめ、その一帯山脈の影が、かぶさるので闇い衣を被ている、日の昇るに伴れて、附近の大山岳、幾百の頭臚皆起って舞う。

風起る、駆け戻って朝飯を済まし、善作が後始末をしている間、一足先へ出立する、奥常念に向おうとて。

八月の炎天というのに、黒羅紗の外套を着る、毛糸の襟巻をする、革の手袋をはめる、かくして岩頭に金剛杖をブッ立て、日の出の大観を眺めていた。

善作が来ない、あまり長いから一、二町戻って見たが影も形もない、小舎まで帰ってみると、几帳面な彼は中を片附けて、蓆の戸帳まで叮嚀に卸してあるが、本人はどこにも見えない