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おんなとぼうし

女と帽子

豊島 与志雄

――「小悪魔の記録」――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,614 字 · 33 页

青空文庫

今村の心には通じなかったらしく、黙ってじっとしていた。俺はつまらなくなって、伸びを一つしておいて、室の方に行ってみた。すると、すぐ後から、今村ものっそりついてきた。

波江はもう身仕舞いをすましていたが、化粧をしていないその素顔が、びっくりするほど蒼ざめていた。そして口をきっと結び、寝不足らしい瞼はしてるが、眼付に黒ずんだ険しい光を帯びていた。

二人はちらと視線を合したがすぐにそらし、開け放した障子の両端に離れて、波江は坐り、今村は腰をかけた。そして云い合わせたように、どちらも同時に煙草に火をつけた。

「いま、御飯をそう云ったんですが、お酒をあがるんでしょう。それとも、ビールになさいますか。」

「酒にしましょう。」

然し、波江は聞きすてて、坐ったまま動かなかった。

東の空の雲は次第に水平線に低くなり、太陽の光は強さをまして、海面にふりそそぎ、そのために無数の小波がたってるかのようだった。

料理が運ばれてきた。そして二人で、呆れたことには、朝っぱらから酒をのみ、今村はへんなことを尋ねた。

「ここは、御存じの家ですか。」

「いいえ、初めてです。」

「でも……。