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おんなのけっとう

女の決闘

太宰 治

「月刊文章」1940(昭和15)年1~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,661 字 · 75 页

青空文庫

白樺の木の葉は、この出来事をこわがっているように、風を受けて囁き始めた。

女房は夢の醒めたように、堅い拳銃を地に投げて、着物の裾をまくって、その場を逃げ出した。

女房は人げの無い草原を、夢中になって駆けている。唯自分の殺した女学生のいる場所から成たけ遠く逃げようとしているのである。跡には草原の中には赤い泉が湧き出したように、血を流して、女学生の体が横わっている。

女房は走れるだけ走って、草臥れ切って草原のはずれの草の上に倒れた。余り駆けたので、体中の脈がぴんぴん打っている。そして耳には異様な囁きが聞える。「今血が出てしまって死ぬるのだ」と云うようである。

こんな事を考えている内に、女房は段段に、しかも余程手間取って、落ち着いて来た。それと同時に草原を物狂わしく走っていた間感じていた、旨く復讐を為遂げたと云う喜も、次第につまらぬものになって来た。丁度向うで女学生の頸の創から血が流れて出るように、胸に満ちていた喜が逃げてしまうのである。「これで敵を討った」と思って、物に追われて途方に暮れた獣のように、夢中で草原を駆けた時の喜は、いつか消えてしまって、自分の上を吹いて通る、これまで覚えた事のない、冷たい風がそれに代ったのである。