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おんなのさかなうり

女の魚売り

小川 未明

「赤い鳥」1922(大正11)年4月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,886 字 · 8 页

青空文庫

「あれは波にさらわれたのだ。」と、金持ちは信じませんでした。

「さあ、今度は、よく見ていてください。」と、女はいって、第二、第三、第四、というふうに、一ぴきずつたいを海に放しました。

たいは喜んで、高く波の間におどり上がって、しぶきを金持ちの顔にかけてゆくのでありました。

「どうでございますか。」と、女は、すっかりたいを海に放してしまったときに、いいました。

金持ちは、ぼんやりとして、見ていましたが、これは、夢ではないかと思ったのです。

「さあ、私に、お約束通り、たいのお金を払ってください。」と、女は、金持ちに向かっていいました。

すると、金持ちは、いちはやく、逃げ支度をして、

「だって、自分のものにしないものに、金を払う必要がない。」といいました。

女は、あきれた顔つきをしながら、金持ちを見て、

「生きていたら、お金をくださるお約束ではありませんか。」といいました。

「そんな金は持たない。」と、金持ちはいい捨てて、そこから駈け出しました。そして、後も振り向かずに、どんどんと、あちらへ逃げていってしまいました。

女は、途方に暮れて、波打ちぎわに立ったまま泣いていました。