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おんなけんし

女剣士

坂口 安吾

「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页

青空文庫

その泥棒をナマスのように斬るために戸を開けて待っているのだろうか。その程度の乱暴者ならヤクザの中にもいるはずだし、刑務所で見た死刑囚の強殺犯人にはその程度の妖気を漂わしている奴もたしかにいた。しかし、その程度の奴では及びもつかぬ人種ちがいの何かがある。こんな怖しさはこの年になるまで、まだどこでもお目にかかったこともなかったと存八は思った。しかしこれもインネンだ。しばらく辛抱してみようと思ったのである。他に行く先の当てがないから、これもインネンとあきらめる以外に手がなかったのだ。

★

毎朝この道場へ通ってくる唯一人の門弟があった。小学校の教員で寺田正一郎という人物だ。一見柔和な好男子だが、人をジッと見つめる目に凄みが感じられて、存八はどうも打ちとける気持になれなかった。

そもそもこの山奥の寒村にどうしてこんな道場があるかというと、このあたりの歴史を知ると全く珍しくないことが分るのである。幕末まではこの山中のあらゆる村々に必ずと云ってよいほど道場があった。武蔵の山中も武張ったところで諸村に道場があったものだが、たぶん武蔵七党なぞの流れをくんで、大名やその家来の武士とは無関係に土着の農民が代々武を好んでいたのかも知れない。