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おんなけんし

女剣士

坂口 安吾

「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页

青空文庫

「化け物屋敷で結構よ」

「アナタは化け物だが、ワタシは人間だからね」

「言ったな」

背中へ一撃を加える。この一撃は弁慶でも七転八倒するのであるが、歌子はジッと七転八倒させてはおかない。耳をつかんで存八の上体を引き起して、

「誓いなさい。ホシ芋と剣術すると」

「できるはずがない」

「できます」

「それはムリというものだ」

「コソ泥のくせに強情ね」

存八はまた散々にぶちすえられた。

物陰に隠れてこれをツブサに見た朝之助は自己の心境にひきくらべて容易ならざる事態を察知した。師が門弟に対する愛情だけでは、割りきれないものがある。なぜなら二人は女と男だからだ。

朝之助はわが子へのやみがたい愛情によって歌子にきびしく剣をしつけた。泣けば打ちすえ、ひるめば打ちすえ、ゆるみを見れば打ちすえた。愛情によって、そうであった。しかし、歌子が女になってきた頃から、もう一つのさらに激しい愛情が加わってきたのを知った。女に対する男の愛だ。そのやみがたい愛によって、さらに一段ときびしく剣をしつけたのである。倒れても打ちすえた。血がにじんでも打ちすえた。そして必死に立ち上り、歯をくいしばり、マナジリを決して立ち向う女の姿のりりしさを見て満足したのだ。